中国選手権大会 個人戦

宮 庄 恭 平
  
「夢を矢にのせて」

                                     笠岡博範

                                           平成24年6月23日

見上げると、雲が覆いかぶさっている。

梅雨空だ。

今にも泣きそうである。

鳥取県立武道館弓道場の観客席は満席状態。

立錐の余地も無い。

蒸し暑さで、みな団扇や、プログラムで顔を扇いでいる。

今朝ほど、9時から始まった個人戦の予選。





男子は、8射8中の選手が、7人も出た。

中国地域の競技力が上がってきたことが分かる。

その7人の選手の中に、あの宮庄の顔があった。

体つきはがっちりしているが、小柄なのですぐに彼と分かる。





予選が終わり、

8射8中の選手が入場し、決勝戦に入る。

いよいよ、サドンデスの戦いの始まりだ。

7人の選手は、みな、矢を一本だけ手にする。

1射目、宮庄は落ち着いて、矢を確実に的に入れる。

2射目も――、

3射目も――。

外せば、その時点で終わる。

選手は、一人減り、二人減りと・・・。


射詰めの7本目まで進む。

残った選手は、わずかに二人。

その二人の中に、あの小柄な宮庄の姿があった。

7本目も、落ち着いて的中させる。

もう一人の選手も見事に的中。

予選から数えると、二人は15本もの矢を、的に()て続けてきた。

どこにそんな強靱な力があるのか、驚かされる。

予選○○○○○○○○ 決勝○○○○○○○





決勝の8本目に入った。

宮庄の、引くその両腕のバランスに、わずかの狂いが生じた。

修正しようとしたが、そのまま宮庄の手元から離れて、矢は飛んでいった。

結果、的の外に矢が刺さる。

観客席から、悲鳴に近い声が、聞こえてきた。

もう一人の選手が的中させれば、その選手の優勝が決まる。

射場内も観客席の皆も息をのんで、彼の引く矢に目を注ぐ。


ただならぬ雰囲気に、場内は静まりかえる。

その緊張感に耐えられなかったのか、

彼も、外してしまう。

今度は、「アーッ!」というため息に近い声が、観客席から漏れる。

9射目に入る。

その前に、二人はいったん退場する。

9射目からは、小さい的に替えられるからだ。

直径12寸(36cm)から、直径8寸(24cm)の的に。

的替えが終わり、再び、二人の選手が入場してきた。





今度も、宮庄が後ろ立ちであった。

射位に立った二人。

相手の選手が先に、弓を打ち起こす。

ぎりぎりと音をたてながら、いっぱいに引き寄せる。

直後に、放ったその矢は、非情にも外れる。

また、悲鳴に近い声が観客席から聞こえてきた。

しかし、すぐに、シーンと静まりかえる。

自然と手が汗ばんでくる。

宮庄が、いつもの間合いで、ゆっくりと弓を打ち起こす。

最後の力を振り絞って、いっぱいに引き寄せる。

弓の矢摺籐(やずりどう)(狙い)から見える的の大きさは、わずかに米粒ほど。

(かい)に入った。





宮庄は、この時、ほとんど無の状態であった。

優勝の二文字は頭から消え去り、

悟りに近い「(くう)」の状態とでも言えば良いのか・・。


しばらくして、宮庄は、我に返った、

思いのすべてを(夢を)、この1本の矢に託すだけ。

その瞬間、矢は放たれた。

「パーン」という乾いた音が、耳に飛び込んできた。

見ると、的の真ん中に、矢が突き刺さっている。

見事な的中のあまり、一瞬、時が、止まったかにみえた、

・・が、すぐに、動きはじめ、

いっせいに、大拍手と大歓声が、場内に響き渡った。

観客席の隅に、両親が応援に来られていた。

両親は顔を両手で覆っていた。

宮庄の入部してからの1年あまりは、プレッシャーに、からッきし弱かった。

試合に出れば、そのほとんどを外して、悔し涙を流していた。

しかし、今日の晴れ舞台で、今までの悔しさをバネに、大きく成長!

その雄姿に、しばし感動!

祝福の拍手が鳴り止まない中、

射場に一人立つ、宮庄の(まなこ)には、かすかに光るものが見えた。

                                 

        

 




 






個人優勝  宮庄恭平 【崇 徳】